建設業、ホテル・旅館業、製造業に続く業種別の4本目として、小売業と卸売業を取り上げます。 この2業種には、他の業種にない特徴があります。要請が両側から来ることです。 小売業は消費者に近いため、店頭での見え方が問われます。卸売業は上流と下流の両方に取引先を持つため、排出量を「聞かれる側」と「集める側」を同時に担うことになります。この構造を押さえておくと、何から手を付けるべきかが見えてきます。 ■ まず、義務になっている法令から確認する ESGの取り組みを考える前に、確認していただきたい法令が4つあります。該当していれば、取り組みの選択ではなく義務です。 プラスチック資源循環促進法(2022年4月施行)は、小売業・飲食業などに関わります。スプーン、フォーク、ストロー、ハンガー、歯ブラシなど12品目が「特定プラスチック使用製品」とされ、これらを無償提供する事業者は使用の合理化が求められます。前年度の提供量が5トン以上の事業者は「多量提供事業者」とされ、取組が著しく不十分な場合には勧告・公表・命令、さらに罰則の対象になり得ます。 食品リサイクル法は、食品廃棄物等の年間発生量が100トン以上の食品関連事業者に、発生量と再生利用の状況の定期報告を義務づけています。食品小売業・卸売業は対象業種に含まれます。 容器包装リサイクル法は、容器包装を利用して商品を販売する事業者に再商品化の義務を課しています。一定規模以下の事業者は適用除外となる仕組みがありますので、自社が該当するかの確認が必要です。 フロン排出抑制法は、業務用の冷凍冷蔵機器・空調機器の管理者に点検を義務づけています。簡易点検は3か月に1回以上、一定規模以上の機器は定期点検が必要です。算定漏えい量が年間1,000t-CO₂以上の事業者には報告義務があります。 冷蔵・冷凍のショーケースを多数お持ちの食品小売業では、4つ目が特に重要です。点検記録が残っていない状態は、取引先の調査票でも金融機関の面談でも説明できません。 ■ E(環境):電気代の内訳は、だいたい決まっている 小売業の店舗で電気を使うのは、冷蔵・冷凍、空調、照明の3つです。食品を扱う店舗では冷蔵・冷凍が最大の項目になります。 効果が出やすい順に挙げます。 一つ目は、冷蔵・冷凍ショーケースへのナイトカバーや扉の設置です。開放型のケースは、冷気が通路に流れ続けています。営業時間外にカバーをかけるだけで効果が出ます。扉付きへの切り替えは投資が必要ですが、回収期間は短い部類です。 二つ目は、凝縮器(コンデンサ)の清掃です。ホコリが詰まると冷却効率が落ち、同じ温度を保つのに余計な電力を使います。屋外機の周りに物を置いていないかもあわせて確認してください。 三つ目が、照明のLED化と、閉店後の消灯ルールです。すでに済んでいる店舗が多い領域ですが、バックヤードや倉庫、看板が取り残されていることがあります。 食品ロスについては、環境面と利益の両方に直結します。廃棄の記録を品目別・時間帯別に残すと、発注量と値引きのタイミングの精度が上がります。これは環境活動というより在庫管理の話であり、取り組んだ結果が廃棄率という数字で出ます。取引先や金融機関に見せられる数字としても扱いやすい指標です。 ■ S(社会):パート・アルバイトが中心の職場であること 小売業の現場で問われるのは、人の扱いです。 取引先の調査票や、求職者から見られる論点は次の範囲です。 ・労働時間の管理とシフトの組み方 ・最低賃金の改定への対応 ・ハラスメントの相談窓口 ・カスタマーハラスメントへの対応方針 ・外国人材の雇用形態と適正な運用 ・有給取得率と平均勤続年数 カスタマーハラスメントへの対応方針は、近年とくに注目されています。対応の手順を定めて従業員に周知しているかどうかは、採用の場面で効きます。求人票に書ける項目でもあります。 女性活躍推進の「えるぼし」、子育てサポートの「くるみん」、若者雇用の「ユースエール」といった国の認定は、小売業では取得の実益が出やすい領域です。パート比率が高く女性従業員が多い職場であれば、えるぼしの要件を既に満たしている可能性があります。 ■ G(ガバナンス):表示と仕入れ 小売業・卸売業のガバナンスで最も危ないのは、表示です。 「エコ」「環境にやさしい」「サステナブル」といった言葉を商品や販促物に使う場合、景品表示法の優良誤認表示に該当しないかの確認が必要です。消費者庁から表示の根拠資料の提出を求められた際、合理的な根拠を示せなければ不当表示とみなされる仕組み(不実証広告規制)があります。 とくに注意していただきたいのは、プライベートブランド(PB)商品です。製造は委託先でも、表示の責任を負うのは自社です。「原料に再生材を使用」と書くのであれば、使用率と、その根拠を委託先から取り寄せて保管しておく必要があります。委託先の説明を信じただけの状態では、根拠を示せません。 仕入れの面では、下請法と、取引先への発注条件が論点になります。卸売業では、価格転嫁の交渉を一方的に拒んでいないかも見られます。これは「パートナーシップ構築宣言」で表明できる領域でもあり、宣言をすることで公共調達や一部の補助金で加点を受けられる場合があります。 ■ 卸売業は、排出量の「集める側」にもなる 卸売業に固有の話をします。 大企業が取引先に排出量の提出を求めるとき、卸売業は中間に立ちます。川下の大手小売から聞かれ、同時に川上のメーカーに聞かなければならない。つまり、取りまとめの作業が発生します。 ここで効いてくるのが、様式を1つに決めておくことです。仕入先に送る依頼の様式と、小売に提出する様式を揃えておけば、転記の手間が激減します。様式に入れておく項目は次の4つで足ります。 ・対象期間 ・数値と単位 ・算定の範囲(会社全体か、当社との取引分か) ・根拠(請求書の実測か、推計か。推計ならその方法) 取引先が数十社あると、この取りまとめは相当な作業になります。逆に言えば、これを整えている卸売業者は、取引先から見て手放しがたい存在になります。サプライチェーンの情報を束ねられること自体が、卸の機能として評価される時代になりつつあると考えています。 ■ 堺市周辺の事業者の方へ 堺市を含む大阪南部には、食品・日用品・工業資材の卸売事業者と、地域に根ざした小売事業者が多く集まっています。 この地域の事業者が持つ強みは、取引先との距離の近さです。排出量の照会や調査票のやり取りは、書面だけでは精度が上がりません。仕入先に電話一本で確認できる関係があることは、大手にはない実務上の優位です。 法令の確認と記録の整備という、地味ですが確実な部分を固めておけば、その関係性をそのまま取引上の強みに変えられると考えています。 ■ まとめ 1. まず4つの法令(プラ新法・食品リサイクル法・容リ法・フロン法)の該当を確認する 2. 冷蔵冷凍のナイトカバーと凝縮器の清掃から着手する(投資が小さく効果が出る) 3. 食品廃棄は品目別に記録し、発注精度の改善として扱う 4. カスタマーハラスメント対応方針と労務の数字を、求人票に書ける形にする 5. 「エコ」表示の根拠資料を保管する。PB商品はとくに自社の責任 6. 卸売業は、仕入先への依頼様式と提出様式を1つに揃える (出典:プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律および環境省プラスチック資源循環ポータル、食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律、フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)第7条第2項に基づく不実証広告規制、厚生労働省「えるぼし認定」「くるみん認定」「ユースエール認定」の各認定基準、経済産業省・中小企業庁「パートナーシップ構築宣言」) ※ 本記事は上記資料をもとに当社が内容を整理・要約したものであり、各資料の原文そのままではありません。各法令の適用範囲・規模要件は事業の内容により異なりますので、個別の該当判断は所管官庁または専門家にご確認ください。