毎年、年明けに届く1月分・2月分の電気代の請求書を見て、思わず二度見してしまう——そういうご経験はないでしょうか。 冬は、多くの事業所にとって一年で最も電気代とガス代が高くなる季節です。そして、この時期の使用量は、夏とは別の理屈で動いています。夏向けの節電策をそのまま持ってきても、思ったほど効きません。 この記事では、冬のエネルギー費用を下げるために、どこから手を付けると効果が大きいのかを、順番に整理します。設備投資が必要な話は後半に置き、まず費用をかけずにできることから書きます。 ■ なぜ冬の方が高くつくのか 夏と冬で、空調にかかる負荷の構造が違います。 夏の冷房は、室温と外気温の差がおおむね5〜10℃です。ところが冬の暖房は、外が3℃、室内を20℃にしようとすると、その差が17℃になります。熱は温度差に比例して逃げますので、同じ建物でも冬の方が負荷が大きくなります。 加えて、日照時間が短いため照明の点灯時間が延びます。給湯の負荷も上がります。水道水の温度が夏より10℃以上低いため、同じ温度のお湯をつくるのに必要な熱量が増えるのです。飲食業やホテル、工場の洗浄工程をお持ちの事業者様では、この給湯分が冬の増加額の大きな部分を占めていることがあります。 つまり冬の対策は、暖房・照明・給湯の三つに分けて考えると整理しやすくなります。 ■ まず、請求書の「何が増えたのか」を見る 対策の前に、どこが増えているのかを確かめます。やることは2つだけです。 一つは、前年同月との比較です。1年前の同じ月の請求書と並べて、使用量(kWh、m³)を比べます。ここで見るのは金額ではなく使用量です。金額は燃料費調整額や再エネ賦課金、単価改定で動きますので、金額だけ見ていると自社の使い方が変わったのかどうかが判断できません。 もう一つは、最大需要電力(デマンド)の確認です。高圧または低圧電力(動力)で契約されている場合、基本料金は過去1年間で最も大きかった30分間の需要で決まります。冬の朝、暖房をいっせいに入れた瞬間にデマンドが跳ね上がると、その後1年間、基本料金が高いままになります。 ここが冬の節電で最も効果が大きく、かつ見落とされやすい点です。使用量(kWh)を減らすより、ピークの15分を分散させる方が効く場合があります。具体的には、始業前の暖房立ち上げを一斉ではなく区画ごとに10〜15分ずつずらすだけで、ピークが下がることがあります。費用はかかりません。 ■ 費用をかけずにできること 次の項目は、いずれも投資がほぼ不要で、冬に効果が出やすいものです。 ◆ 設定温度を1〜2℃下げる 環境省は冬の室温の目安として20℃を示しています。22℃から20℃にすると、暖房のエネルギーはおおむね1割前後減るとされています。ただし、ここは働く方の体調と相談してください。無理に下げて生産性や健康を損なえば、本末転倒です。実務的には、サーキュレーターで足元に暖気を回し、体感温度を上げてから設定温度を下げる方が受け入れられます。 ◆ 天井にたまった暖気を下ろす 暖かい空気は上に行きます。天井が高い工場や倉庫、吹き抜けのある店舗では、天井付近と床付近で5℃以上違うことがあります。シーリングファンや既存の扇風機を上向きに回すだけで、足元の体感が変わります。 ◆ 隙間風をふさぐ 搬入口、シャッターの下、換気扇の周り、古いサッシ。隙間風は、暖房でつくった熱をそのまま外に捨てていることになります。ホームセンターの隙間テープやビニールカーテンで対応できる箇所は少なくありません。 ◆ 不在区域の暖房を切る 使っていない会議室、休憩室、倉庫の事務スペース。自動で止まらない設備は、誰かが気づかないと朝から晩までついたままになります。朝礼で一言添えるだけで変わります。 ◆ フィルターを掃除する 空調のフィルターが目詰まりすると、同じ暖かさを得るために余計に電力を使います。月1回の清掃を習慣にしてください。 ◆ 給湯の温度と時間を見直す 給湯器の設定温度が必要以上に高くないか、業務時間外も保温し続けていないかを確認します。食器洗浄や手洗いの用途であれば、設定を数℃下げても支障がないことがよくあります。 ■ 投資を伴う対策は、補助金とセットで考える 効果が大きいものの費用がかかる対策としては、次のようなものがあります。 照明のLED化、空調設備の高効率機への更新、工場の圧縮空気配管のエア漏れ補修、蒸気配管・バルブの保温強化、インバータの導入、断熱改修、そして太陽光発電と蓄電池の設置です。 このうち、工場をお持ちの事業者様に最初にお勧めしたいのは、蒸気配管の保温と、エア漏れの補修です。どちらも目に見えないところで損失が続いており、投資額に対する回収期間が短くなりやすい領域です。 国や自治体の支援制度としては、省エネ設備の更新を支援する補助金が毎年度用意されています。制度の名称や要件は年度ごとに変わりますので、公募時期を逃さないことが実務上は最も重要です。おおむね春から夏に公募があり、年度内に工事を終える必要があるものが多くあります。 また、自社のどこに無駄があるかを専門家に見てもらう「省エネ最適化診断」という制度があります。中小企業であれば自己負担が数千円程度で、自治体によっては無料枠や費用補助が設けられています。年度ごとに条件が変わりますので、最新の内容は省エネ・節電ポータルサイトや自治体の窓口でご確認ください。 ■ 節電の記録が、そのまま取引先への回答になる ここからが、節約の話で終わらせないための要点です。 毎月の電気・ガス・燃料の使用量を1枚の表にして残しておくと、三つのことが同時にできます。 一つ目は、異常値にすぐ気づけることです。「先月だけ妙に多い」の原因を追うと、休日に空調が止まっていなかった、配管から漏れていた、といった話が出てきます。 二つ目は、改善の効果を数字で言えるようになることです。「隙間風対策を実施した」ではなく「2026年12月に搬入口の隙間を補修、電力使用量は前年同月比5.8%減」と書けるかどうかで、金融機関や取引先への説明力が変わります。 三つ目は、取引先からCO₂排出量を聞かれたときに、即日で答えられることです。排出量の計算に必要な材料は、電気のkWhと燃料の使用量です。節電のために毎月記録している表が、そのまま回答の元データになります。 節電は目の前のコスト削減として始められますが、記録の形を整えておくだけで、サプライチェーンからの要請への備えにもなります。二つを別の仕事として抱えずに済みます。 ■ まとめ 冬のエネルギー対策は、次の順番で取り組むのが効率的です。 1. 前年同月の使用量と比べ、何が増えたのかを確認する 2. 朝の立ち上げを区画ごとにずらし、デマンドのピークを抑える 3. 設定温度・天井の暖気・隙間風・不在区域・フィルター・給湯を見直す(費用ほぼゼロ) 4. 効果が大きい投資案件は、補助金の公募時期に合わせて準備する 5. 毎月の使用量を1行ずつ記録し、取引先への回答にも使える形で残す 1から3までは、今週のうちに着手できます。そして3の効果は、来月の請求書に表れます。 ▶ 当サイトでは、電気・燃料の使用量を入力するだけでCO₂排出量(Scope1・2)を算定できる無料ツールを公開しています。社名・連絡先の入力は不要です。毎月の記録の受け皿としてもご利用いただけます。 (出典:環境省「ウォームビズ」における暖房時の室温の目安、資源エネルギー庁「省エネポータルサイト」の家庭・業務部門の省エネ対策、電気事業法に基づく電気供給約款(最大需要電力による基本料金の算定)、省エネ最適化診断に関する各実施機関の案内) ※ 本記事は上記資料をもとに当社が内容を整理・要約したものであり、各資料の原文そのままではありません。